渚にときめく(3) 追い求めた水平線の記憶 – 西日本新聞

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 冬の夕暮れが近づく午後5時半、福津市福間海岸にあるカフェ「ラナイ」。海に面したカウンターに座り、緒方義幸さん(76)=同市花見が丘=はマンゴージュースを注文した。「夕日を見るときはリゾート気分に」という、緒方さんならではのこだわりだ。

 取り出したのは方位と時刻が細かく書き込まれた扇状の方眼紙。扇の縁は目の前の水平線、要は「ラナイ」の位置を示す。これを使えば、その日は何時何分に、どの位置へ夕日が沈むかを知ることができる。緒方さんが国立天文台のデータを使い、工夫を重ねて4年前に実用新案登録した「夕陽(ゆうひ)風景時計」だ。

 「ラナイ」では春分と秋分の日、真西に沈む夕日を真正面に見ることができる。「夕陽風景時計」は評判になり、今は地域づくり団体が金属製の時計盤を台座に取り付けるなどして、玄界灘沿岸など4カ所に設置されている。もちろん、時刻や方位はその場所によって違う。その一つ一つを緒方さん自らが製図し、提供してきた。

 「誕生日にはこの位置に沈むと分かれば、夕日は立派なプレゼントになるからね」。緒方さんの顔をガラス越しの光が赤く染める。

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 緒方さんにとって、忘れられない夕日がある。

 10年ほど前の夏、自宅近くの福間海岸で見た。全国を飛び回った仕事を退職し、ようやく自分の時間を取り戻した頃だった。妻と歩いた砂浜を赤々と染め、水平線に沈む姿に息をのんだ。以前、ハワイのワイキキ海岸で見た夕日の迫力を上回ると思った。

 その数日後、緒方さんは再び海岸を訪れる。だが夕日は水平線に沈まず、島影に消えた。「なぜだ」。その体験が「夕陽風景時計」のアイデアにつながった。

 水平線の夕日に憧れた緒方さんだが、最近は違った心境にもなっている。

 「観察を始めたころは島は邪魔だとすら思っていた。だが、だんだんアクセントのように見えてきて、水平線だけの風景より貴重だと思えてきた」

 「夕陽風景時計」の設置で各地を訪れ、土地それぞれの夕日があることを知った。島と重なって沈む夕日。山の頂と頂の間に見える海に沈む夕日-。そして、そんな古里の夕日を大事に思い、目に焼き付けたいと思う人々も。

 午後6時10分すぎ、夕日は相島の左端にゆっくりと沈み始めた。赤く染まる空と海の間に、島のシルエットがくっきりと浮かび上がった。

=2017/03/06付 西日本新聞朝刊=

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