山陰の鉄路を考える/17 最終列車に花火と拍手 見送り、進むための儀式 /島根 – 毎日新聞

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三江線運行最終日に宇都井駅前に集う人々=島根県邑南町宇都井で、田原幹夫さん撮影



 ついにそのときがやってきた。3月31日午後8時41分、JR三江線宇都井(うづい)駅(邑南町宇都井)を発車する最終列車。その停車中に上がった花火を、車内の乗客やホームに上がった住民、田んぼにカメラを構えた撮り鉄(鉄道写真愛好家)たちと見守った。花火が終わり、車両がトンネルに消えた瞬間、大きな拍手が沸き起こった。

 宇都井の住民たちは3月18日から駅のライトアップを続けてきた。全国から訪れる人をもてなしたい、とLED照明を毎日セットして、グッズを販売したりお茶を出したり。その住民の思いに応え、灰示花火(雲南市)が花火を上げようと申し出てくれた。しかもボランティアで。

 3月31日は一日で宇都井駅周辺に約8000人が訪れた。道路の狭い駅の周りで、集中する車を住民有志や役場の職員が懸命に誘導してくれた。駅の下では、宇都井の女性たちがうどんや宇都井駅をかたどったカレーを販売。一日中、駅を中心に賑(にぎ)わいは続いた。

 夜も更けて、最終列車が宇都井駅に入ってくると、駅の下では住民たちが「ありがとう三江線」の旗を振って迎えた。停車と同時に約50発の花火が上がった。最初は「20発」と言っていたのに大サービス。灰示花火の心意気。列車は花火を見届けてから、いつもより長く警笛を鳴らして走り去った。そして拍手が自然発生的に起こった。

 あの場にいた人たちにとって、三江線をなくす寂しさや痛みは消えないが、それでも、最後の列車を宇都井駅で見送りたいという気持ちが一つになって、花火と一緒に天へ昇っていくようだった。そう、ここは「天空の駅」。

 三江線を見送るイベントは当初、嫌悪感もあった。「葬式鉄」と呼ばれる廃線の日に集まる人たちへの違和感もあったし、それ以前に、もっと早く対策が打てていれば三江線を失うことはなかったという後悔がよぎるからだ。

 しかし、三江線への愛着や、失う悔しさや、廃線後への希望や、楽しかった思い出など、沿線の住民や鉄道ファンのさまざまな思いを昇華させ、次への一歩を踏み出すために、最終日のイベントが必要な儀式であったことを、あの拍手が教えてくれた。

 午前零時前、宇都井駅の116段の階段を、廃線後の活用を考えている仲間と一緒に昇った。静まりかえったホームで記念写真を撮り、いつか、この階段を再び昇れるように頑張ろう、と誓い合った。その直後、駅入り口にバリケードが設置され、立ち入り禁止の立て札が立った。

 数日後、宇都井の住民がバリケードの前に花を植えたプランターを設置した。新たに「駅ノート」も置かれた。三江線は廃止されても、あの拍手に込められたみんなの思いは、天空の駅に宿り、受け継がれていくのだ。(森田一平)=次回は25日掲載予定


筆者略歴

 1968年、邑南町(旧羽須美村)生まれ。山陰中央新報社(松江市)の論説委員を経て、今年4月から同町定住促進課羽須美振興推進室プロジェクトマネジャー。三江線沿線地域の振興を目指す民間団体「三江線地域フォーラム」会員。記者時代に竹島問題についての連載「環(めぐ)りの海」(岩波書店)で日本新聞協会賞受賞。







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