インバウンドを通じて見える伝統産業の将来像/地域活性機構 リレーコラム – Glocal Mission Times

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訪日外国人観光客の増加に伴い、彼らの行動や興味から日本が誇る伝統文化、地域資源が見直され、活気を取り戻す例も増えてきていますが、日本人が考えている以上に日本文化の魅力と価値を的確に捉えています。一方で、外国人に触発された日本の若い世代にもその魅力が伝わり、関心が高まっています。今後の地域の課題解決にもつながるヒントを現状から考えてみたいと思います。

オリパラに向け文化や伝統を世界へ発信する好機

日本政府観光局の統計によれば、2017年の訪日外国人観光客は前年比19.3%増となる2869万人を超えました。アジア系が牽引し、欧米系も増加して5年連続で過去最高を更新しています。特に地方を訪れる観光客は三大都市圏に比べ2倍ペースで増えているといいますし、リピーターは地方の祭りや食、伝統工芸品などを目当てに来日し、母国では決して体験することのできない「コト」や日本ならではの「モノ」、特に伝統文化は主要コンテンツとしてさらに期待が高まっています。

政府は東京オリンピック・パラリンピックが開催される「2020年には4000万人」という高い目標を掲げているほか、観光立国が「地方創生」の起爆剤とも捉えています。今後、各地の文化財や自然など観光資源を生かすことやIR推進法に基づき日本型の複合観光施設による滞在型観光の推進、主要空港の発着枠の拡大といったインフラ整備や観光促進税の導入などさまざまな施策により日本を訪れる外国人観光客は増えていくことが予想されています。

さて、オリンピック・パラリンピックが世界最大のスポーツイベントであることは誰しも疑いのないところですが、オリンピック憲章には、「スポーツを文化・教育と融合させる」ことの意義や大会期間中に「複数の文化イベントのプログラムを計画しなければならない」と明記されています。実は多くの人々が創造性を発揮する文化の祭典という側面があるばかりか、全国各地で文化プログラムを実施して日本が誇る文化や伝統を世界へ発信し、地方創生や地域活性化につなげるチャンスでもあります。

■オリンピック憲章
「オリンピズムの根本原則」
オリンピズムとは、スポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである。

「第5章 オリンピック競技大会」の「39条 文化プログラム」

OCOGは少なくともオリンピック村の開村から閉村までの期間、文化イベントのプログラムを催すものとする。当該プログラムは、IOC理事会に提出し、事前に承認を得なければならない。
※ODOG(オリンピック組織委員会)、IOC(国際オリンピック委員会)

2015年から2017年にかけ人口40万人ほどの某自治体の2020年に向けた文化プログラムの調査と企画立案に携わったことがあります。その際に地域資源の再発掘、整理の過程で、その地域で行われている祭りやイベントの実態を調べ、地場産業や伝統工芸品などもリサーチし、関係者にヒアリングしていく中、地域が文化的魅力の宝庫であると改めて感じたほか、さまざまな視点から地域の魅力を見つめ直し発信していくことで、地域に活力が出てくると思いました。

若い世代にも見直される日本の伝統工芸品

地域が誇る伝統工芸品ですが、3月にJTB総合研究所が発表した「地域の特産品への意識についての調査」で、伝統産業に関心の高い20~30代の若者が多いという意外な事実が明らかになりました。外国人が日常生活に日本の伝統産業品を上手に取り込んだことも若者が日本の伝統産業品に関心を持つきっかけになったといいます。産地とのつながりを強く持ちたいと回答していることからも若い世代が地場産業や伝統産業品を支援したいという気持ちが強いようです。

地場産業や伝統産業との関わりについて55.5%が「何らかの関わりを持ちたい」、具体的には、43.7%が「購入したい」と答えているほか、どのように捉えているかについては「日本の地域に伝わる生活・伝統文化に触れられる」が60.7%と多く、実用性よりも心の豊かさに価値を置いていることが分かりました。購入場所については「生産地(通販サイト含む)」が53.1%と半数を超え、生産地の中でも現地に赴いて購入している割合が高いものでした。

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実際に購入が多かったのは「焼き物・陶磁器」「食器・ガラス製品」「刃物」の順で、製作体験についても81.6%が「体験したい」意向で、69.7%が「旅行先で体験してみたい」と答えています。生産地に出かけて伝統産業品を購入するきっかけには、オープンファクトリーがあるようです。背景には、新潟県の「燕三条 工場の祭典」など地域の工房や工場を開放するオープンファクトリーのイベントが各地の「ものづくり」のまちに広がっていることがあります。

地域を活性化する取り組みとしてアートと地域の風土とを融合させたアートフェスティバルや芸術祭も全国に広がっていますが、地場産業や伝統産業品に関心のある人は地域で開催される国際芸術祭についても「関心あり」が67%で、11.5%が「実際に行った」と答えているほか、関心がない人に比べ、「購入したい」「直接支援したい」「関わる仕事がしたい」など、すべての意向が高い結果になっていることが分かりました。

伝統工芸品により訪日外国人客を地方都市へ

インターネットで購入する方も多い伝統工芸品ですが、今年1月にANAホールディングスが、伝統工芸品のECサイト「WAYO」を開設しました。江戸切子などのグラス類を始め、鍋、財布、刀など20ブランド300品目に及び、2000円から500万円までと幅広い伝統工芸品を取り扱っています。まだまだ日本の伝統工芸品を販売対応するECサイトは珍しい状況ですが、今後、海外の在住者も注文できるように英語と中国語に対応したものとなるようです。

専用サイトの開設にリンクして伝統工芸品を製作する工房への訪問ツアーの企画や販売にも力を入れていく意向ですが、訪日外国人客は増えているものの、国内線の外国人の搭乗率はまだ低く、注目されている「日本のものづくり」を象徴する伝統工芸品をきっかけに訪日外国人の地方都市への誘客につなげていこうという狙いがあるようです。さらに、伝統的工芸品産業振興会とも連携を図って各地の伝統工芸品を紹介していくことも考えられているといいます。

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ANAホールディングスの伝統工芸品ECサイト「WAYO」

リアルな店舗でも日本の伝統文化に注目し、全国の工芸品をセレクトして製品プロデュースやイベントを仕掛ける生活雑貨の中川政七商店のほか、2003年から民芸品のブランド立ち上げたビームスでは、2016年に新宿に日本をキーワードにファッションから伝統工芸品までそろえた「ビームスジャパン」をオープンし、「ニッポンのモノヅクリ、スグレモノ」をテーマにした日本百貨店では、地方の日用雑貨を扱うという動きも次々に生まれています。

また、伝統工芸品ばかりでなく、確かな技術を持った職人を抱える伝統の地場産業でも手をこまねいているだけではなく、各地で新たな取り組みが始まっています。金属洋食器の国内シェア9割を占める新潟県燕市では、フィギュアスケートの刃や手術用の医療器具などの製造にも着手していますし、京都市の西陣地区では、伝統の織物技術を生かした椅子や靴、カメラケースなどを各メーカーと共同開発により製造し品ぞろえを広げています。

地域の魅力を伝える地場産業と伝統工芸品

このように最近、改めて注目が集まっている伝統工芸品は、日本が世界に誇る伝統的なものづくりであり、それは卓越した技術を持つ職人たちによって生産されています。現在、全国には伝統工芸とされるものは約1300種類あり、経済産業大臣が「伝統工芸品」と指定するものは225品目あります。生産額は昭和59年にピークを迎えますが、バブル崩壊や経済の低迷、安価な海外製品の台頭などもあり、年々減少して現在では1000億円ほどになっています。

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生産額の減少に伴って企業数や従業員数も減少していますが、技術職の従業員の高齢化で後継者問題も深刻といえます。とはいうものの、伝統工芸品は2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催による日本文化を見直す動きでメディアからも注目度は高まっていますし、訪日外国人客の関心度も上がるという追い風が吹き始めています。伝統工芸品とアニメのコラボによって若い世代からも新鮮なものとして受け止められ、新たな顧客も獲得しつつあります。

生産額は下げ止まった感がありますし、日本製品に対する基本的な信頼感から海外でも日本の産業から生活文化や風習などへと広がり、伝統工芸品にも関心が寄せられているほか、国内でもIT技術の導入に新しい感性を加えた現代「日本のものづくり」に目を向け始めた兆しが明るい材料ともいえます。伝統を守り、革新を加え、新たな担い手となる雇用を生み、地域に経済循環を起こすような流れが数々の追い風を背に各地で起きることが期待されています。

グラフィックデザイナーの原研哉氏によれば、伝統文化への回帰はグローバル経済の発展とともに世界遺産の人気が高まっていったことと同型だそうですし、日本の伝統的なものづくり品ほどシンプルさという美意識に貫かれたものはないと指摘しています。地域や日本の良さが見直される中、伝統産業の再生に地方創生の可能性があると思わずにいられません。単なる製造業ではなく、土地の風土や歴史、素材、技術などが織りなすまさにローカリティの集大成ともいえます。






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